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2013年12月11日 (水)

その国の、小学校の、教科書を読む

 中国で実際に子ども達が使用する教科書、というのを見ていると本当に面白いのであります。

 やっぱり一番長時間、眺めているのは国語の教科書であります。私が持っているのは小学校3年生と5年生であります。もちろん両方とも、生徒からのプレゼント。小学校3年生のほうは、辞書を引きながらだいたいの内容はわかります。「湖の上をツバメが飛ぶのを見るのは楽しい。ツバメさん、ツバメさん、あなたの尻尾って、ハサミに似てるのね。あっ、電線に止まっているところを見ると、五線紙に描かれた音符みたい。ツバメさん、あなたはどんな音楽を奏でてるの?」という、かわいらしい詩的な内容であります。たしかに中国には、日本よりずっと多く、ツバメが飛びます。

 国語の教科書でも小学校5年生となると、もう難解であります。梅の花を愛好する老人と孫娘の交流、ビクトリア瀑布で出会った中国人旅行者と現地の物売りの少年との心温まる会話。それから小学校5年生の国語教科書となるとさすが中国、あの毛沢東がどうやって中華人民共和国を打ち建てたかという英雄譚もあります。

 同じ小学校用教科書といっても社会科となると……。

 1冊を読み終えて、思ったのは、「日本の小学校の、社会科の教科書を読まないといけない」ということでありました。日本の教科書はどうなっているのか。

 自国の歴史の中に、一点の間違いもなかった、この国は正しいことばかりやってきた、という歴史感覚で子どもに対峙するのは、ものすごく危険であります。当たり前ですが数千年の間にはよいこともあれば悲惨なこともあった。はっきりと間違いだったと総括するべきこともあるし、少年少女に誇りを与えるすばらしいエピソードだってそりゃもちろんあります。

 石器時代から秦国の統一、蒙古との関係、それからイギリスがこの国にどんなひどいことをしたか(言うまでもなくアヘンの押し付けね)、それと中国人民、それを率いる英雄がどんなに果敢に戦ったか、毛沢東による抗日戦争と建国、宇宙衛星打ち上げと核実験……。

 中国はものすごく広い国土と56もの民族を擁する13億の巨国で、そんな国が殷の時代からどういう経過をたどって今に至ったかを記述するなら、それは血湧き肉躍るスペクタクルな物語になる。しかしその中には深刻に反省しないといけない「負」の側面だってきっとある。

 失敗だってあるはずであります。

 当たり前ですが小学校の教科書には1976年と1989年と、2度にわたる北京での大事件のことは完全に無視されています。1960年代から70年代前半のあの今でははっきりと「間違った」と認識されている1人の指導者による狂乱狂騒期もいかなる言葉でも記録されない。難しいからか? 違うだろう、この国に生きる人間を鼓舞する「正しい」ことなら相当に難しいことでも記述する。

 この教科書を全部記憶、心に刻んで生きる人間が成長し、さてどういうことが、起こるか。

 常に正しい人間が、あふれる勇気を礎に、正しい判断で正しい国家運営をやってきたのだ、苦しいときもあったが悪いのは常にイギリスで、日本だったのだ、あるいは国内の異端勢力だったのだ、この国の人間はいつだって正しかったのだ。

 そう、教えられて育った人間が、教科書編纂者が意図した通りの、プライドを持つか。

 私には疑問であります。

 まず、信頼しない。正しいことしかしなかったんだよこの国は、という話を聞いた小学校5年生はすでにいま現在この国にある矛盾や困難、場合によったら恐怖と、向き合っている。としたらその教科書とそれを熱意を持って教える教師に対する信頼は、その時点ですでに揺らぐ。その教科書がそうであるように要求している国家の体制についても疑問を持つ。小学校5年生を甘く見ないほうがいい。

 生身の人間が間違いを犯しながらこの国を運営してきたのだ、国際連盟からの脱退もブルネイからの石油調達のもくろみも中国という巨大大陸への侵攻も日韓併合も、もちろん真珠湾奇襲も、のちの人間がその時代の歴史認識で分析するならはっきりと間違いだったのかもしれない、しかし時間は常に前に進むのだ、お前の責任はこよなく重い、と、大人が語るとき子どもは背筋を伸ばしてその大人に、じゃなく国家に、でもなく自分自身に、プライドを持つ。

 だって、教科書を離れてみても。

 俺はこんなにすげぇんだぞ、と語る大人(おじん)って、どんな時代だって醜悪な、実のところプライドのない、卑屈な人間じゃないか。

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