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2013年10月 5日 (土)

何千回「謝謝」を言ったことか

 中国の鉄道網は非常に充実しております。

 まぁ土地は広いし、日本のように鉄道を敷設しようと思うと海岸線とか川沿いとか、ごく限られたところを選んで工夫に工夫を重ね、それでも場合によっては敷設そのものが「できない」というようなことがまず、ないのでありましょう、日に日に鉄道網は充実していきます。

 汽車を愛する人は多い。ちなみにこの「汽車」ですけどこのままの字なら日本語の「自動車」。鉄道列車を表す言葉は「火車」であります。火の車どころか、いつもいつも満員を超す乗客で賑わっております。

 鳥西からの帰路もそうでした。

 独り旅になるわけですが、4日間鳥西~興凱湖を案内してくれた洪くんが別れの日、わざわざ列車まで乗り込んできて近くの乗客に、「この人は日本人でハルピンの大学の先生だ。中国語が全くわからないのでよろしく面倒見てあげて頂戴」と依頼したのでした。

 思った通りのことが起こりました。

 その、私の「近くの乗客」というのは父母と2人の中学生ぐらいの娘、という家族連れだったのですが、まるで関係のない離れた席の乗客にまで「ここに日本人がいるんだよ。うちらが面倒を見るんだよ」と宣伝し始めたのが奥さん。物珍しげにわざわざ席を移動して私の前に来たのが中学生(たぶん)の姉妹。そのうち、噂(?)を聞いた車両内の乗客が、「どれどれオレは日本人なんてまだ見たことネェ」という案配で見物にやってきました。そのうち乗客の中に日本嫌いの人がいて「70年前の蛮行をどう思うのか」と謝罪を求めてきたらどうしようと、本気で心配しました。そういう人はこの中国東北地帯にはごく少ないけどゼロではない。

 まぁ、そうなったらそうなったで砂川の書店さんに報告することが増えるし、と思って腹をくくりました。結果、そのようなことは起こりませんでした。

 やがて昼食どき。

 奥さんが私のためになんと食事を「つくって」くれました。たった9時間ほどの乗車ですけどちゃんと食材を持って乗り込んでいるのです。クレープみたいな生地を拡げ、香辛料を塗り、野菜やお肉を調理したものを載せ、端っこからくるくる巻いて食べるのです。これはハルピンの路上でも「武太郎ピザ(むだらぴざ)」という愛称で売られており、ちょっと辛いけどたいそう美味なのであります。

 奥さんが作ったそれも美味しかったです。1個でおなかいっぱい。そのあとも「これを喰え、これを飲め」と親切にしてくれ、気がついたらデザートのヒマワリの種を御馳走になっていたのでした。

 そしてもちろん、ハルピンに着いたら「ここがあんたの目的地だよ。忘れ物すんじゃないよ。うちらはこれからも旅を続けるけどあんたは元気でね」と、列車から歓送してくれました。

 なんなんだこの世界は。

 本当に、なんなんだこの世界は。

 これだけ世話になっておいて、「謝謝」以外の言葉の出てこない私なのでありました。そして相手の返事はいつもの「不客気(ブカーチ)」。

 この不客気ですけど、すべての辞書に「どういたしまして」と訳されていますが、字からしてもう少し深い味わいがあるのではないでしょうか。

 中国に来て何千回、「謝謝」を言ったことか。

 でもただの1回も「不客気」を言ったことがない。当たり前と言えば当たり前、でも……。

 当たり前だろうか?

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