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2013年4月15日 (月)

芸術活動を規制する国家に明日はない

 中国の学生は本当によく本を読みます。いつも机の上に何冊か書籍が載っているし、それも社会科学、推理小説、アクション、恋愛、ジャンルはいろいろです。

 芥川龍之介を授業しようと思うと、調査をしないといけません。何人かの生徒は、すでにいくつかの作品を読んでいますから、まだ読まれていない作品を探さないといけない。私の場合は、『杜子春』を選びました。『羅生門』のほうはすでにポピュラーなようでしたから。夏目漱石で『坊っちゃん』を選ばざるを得なかったのは、『我是猫』はすでに大勢の生徒に読まれており、『草枕』は中文訳が手に入りにくかったからです。中国で日本の小説を授業するには、通常、中文訳付きの日本文を用います。

 川端康成も、教室の半分の生徒は『伊豆舞女』を読んでいました。といって『雪国』の、「純粋で無垢なものはその世界に存在するから純粋無垢なのだ」という、大事な世界観を説明できる授業力もなく……。

 奇妙なことに、三島由紀夫がなぜか人気、ありません。197011月に市ヶ谷で事件を起こさなかったら日本人で二人目のノーベル文学賞は大江ではなく三島だったと思うのですが……。『下午的曳航』ってそれはなに? 知りませんよ、という生徒に向かって、私はこの作者が1997年の神戸の事件に与えた深い影響について語ることになるでしょう。

 明治以降の日本の文学界の偉人の誰を講義して誰を講義しないか選ぼうとしていて、文学そのものがどう変遷してきたか、漠然とわかる気がしました。

 明治の頃、文学というのは誰よりも言葉を知っているそして個人の内部にたくさんの悩みと葛藤をしまい込んだ人間が紡ぎ出すものであったようです。そういう人間が『個人』と『日本的共同体』の葛藤を描く、それ自体が苦悩なのだけど、読者はそれによって自らの葛藤を価値あるものと知り、日本的共同体との対峙のエネルギーを得ることができた。だから愛されたのでしょう。

 夏目も芥川も川端も少し時代が下って太宰も三島も、要は日本的共同体と決して整合しない個人的問題を多量に抱え、それを小出しにしながら文学者であり続けたのだろう。

 それが、どっかで終わった。

 大江のあたり?

 あんまり名前を口にしたくないけど、つい先日まで東京都知事であったあの人あたり?

 変化の兆しは第2次世界大戦後は常にあったのだろうけど、とどめを刺したのは村上龍だろう。

 時代が小説家を生み出す。小説家は想像力を武器に現実世界に立ち向かう。実に実に変化の少ない時代に苛立つ村上龍は絶え間なく読者にけんかを売り続けたが、さすがに最近お疲れが目立つ。

 時代の激変に対応できない作家は作家じゃないと私は考えており、1995年の大震災とオウムの事件それに1997年の神戸の事件さらには2011年の東北の大災害と、それだけのことが起こったのに完全に背を向けて旧態依然とした作品しか選べないできた芥川賞はもう私は信じない、受賞作も読まない。現実にここ10年、『きことわ』だっけ? あの朝吹さんの作品以外はみんなひどい。

 と、すると……。

 この激変のさなかにあって、世界はどんな小説を(芸術を)生み出すのか?

 変化をアナウンスするのは芸術家の大事な役割だ。万々が一、それを規制したり誰か(おそらくは権力を持つもの)に都合良く誘導したりするような国家があったら(人がいたら)それこそ明日はない、と思うのであります。

 そこまで語って、私の講義は終わります。

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コメント

いつも拝見しています。
社会科学畑の人間ですが、文学は好きなので楽しく読ませていただきました。

ときにべらんめえ、ときにペダンティック、ときに漫談。
よく書き分けられると思います。
ひょっとして文体練習されているのでは(笑)と思ったりします。
こちらはネタはたくさんあるのに気持ちが相変わらず沈んだままで、というより
少し中国に醒めてしまったみたいであまり書けないでいます。

「午後の曳航」、懐かしいですね。私の好きな三島の作品の一つです。
しかし神戸事件に影響を与えたとは知りませんでした。
あまりメジャーな作品ではありませんが何度も繰り返し読んだ
「音楽」や「鏡子の家」を昨日のことのように思い出しました。

共同体が解体して今や個別の苦悩しか書くものがない。
共同体を賛美する文学が面白くないのと同様に個にこもる文学も面白いとは
思えません。石原、大江などはちっとも面白いとは思えませんでした。
先日、1Q84を読み終え、今、平家物語を原文で読んでいます。
古語辞典を持ってこなかったので分らない部分が多々ありますが、
非常に面白い。中国で孤独な夜を過ごしているからこそ読める作品ではあります。

それではまた。

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