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2013年4月12日 (金)

村上春樹氏やっぱりすごい、私が読むのは7月だけど

 6月になったら、3年生に向けて村上春樹についての講義を行います。基本的には短編小説『蛍』でありますが、これは全世界で1千数百万部を売った(海賊版を出している出版社はずいぶん多いが、それはカウントされているのだろうか)『ノルウェイの森』の冒頭100枚であります。

 日本にいたら、今頃は『田崎つくると……』に始まる長い題名のあの小説を、むさぼるように読んでいるんだろうと思いました。

 ところで。

 「写真家が写すのは被写体ではない、被写体と写し手である写真家の『関係』である」とおっしゃったのは、写真家にして小説家の、藤原新也さんであります。

 至言であろうと思います。

 そしてこのことは、小説家にも、あてはまるような気がします。

 つまり、登場する人物にそれ相応の感情移入が行われていないと、描写なんかできないはずだ。

 村上春樹さんの小説を、繰り返し読んで。

 一番たくさんの回数読んだのは『海辺のカフカ』。どこへ行くにもこれを持っておりました。もちろん中国にも持ってきております。この小説の人物描写はすごい。たとえばナカタ老人。ぜひ会ってみたい、この世にいない人だし作品中でももう死んでしまっているけどそれでも会ってみたい、ホシノちゃんが惚れ込むのも当然だよと思わせる、くっきりとその魅力が『立った』表現が、この作者の真骨頂であります。もちろん主人公である田村カフカ少年も、その内省言語であるカラスと呼ばれた少年も、あぁ忘れちゃいけない大島青年も、カーネル・サンダース氏も、作品の前半にしか登場しないシャム猫『ミミ』令嬢も、もうみんなみんな、会ってみたい、と切なく思わせる、描写であります。自分が令嬢ミミと会って何かを語ることができるなら、人間の言語なんか捨てても良いと思わせる、そりゃもう圧倒的な魅力であります。そしてそういう清楚な令嬢が、頭のいかれた野良猫と会話する際には、「黙って話をお聞き。アホたれ。腐れキンタマ」なんてすごみを利かすものだから、もう二重三重に楽しい、四重五重に魅力的なのであります。悪役だってすごい。死者が記憶と時間を捨てて魂として浮遊する清浄な、犯してはいけない『森の町』への不法侵入を企てるジョニー・ウォーカーは憎んでも憎みきれない純粋な悪役であり自分の予言の正しさを証明するためにはナカタ老人と実の息子と、2人を殺人者にしてしまってまったく反省しないのでありますが、その純粋な悪役にしても魅力的だ。魅力は臨場感を呼び、何度読んでもその登場シーンには息をのむ。

 不思議な小説であります。

 不思議な作家であります。

 藤原新也氏の指摘が正しいとするなら、そしてそれを作家にも援用できるとしたら、村上氏は自分が構築した人物像への、余人が近寄りがたい分厚い偏愛を、抱ける人なのだということになる。単に文章のうまいという作家じゃない。

 既存のシステムに対する憎悪と、そのシステムの中で安定しようとする旧世代人を心の底から軽蔑して、それを作家活動のエネルギーとしているもう1人の村上姓の作家もそれはそれで魅力的なのでありますが、ともに現在の小説シーンで最重要な2人でありながら創作姿勢はずいぶん違う。

 そんなわけで、7月に帰国した際の、新作との(その時にはもう新作じゃなくなってるけど)出会いには、期待大なるものがあるのでございます。

 いわた様、どうかよろしくお願いいたします。

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