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2012年12月 7日 (金)

中国語を習うこと、日本語を教えること

 なにぶん、日本語に接してまだ3ヶ月、という人たちです。複雑な会話はもちろん無理、しかしなんとか話題を見つけ、交流しようとしてくれる態度は立派です。というか、覚えた日本語は単語であれ「構文」であれ、使ってみたい気に、なるものでございましょう。私が英語を習い始めた頃もそうでした。

 家族5人で、アイルランドを旅行していたとき。ある、小さな村で。地元のおっちゃんが、「日本人か?」そうだ、と答えると、「待ってろ、この街に日本語を話せる人間が1人だけ、いる。」

 別にケネディのルーツを探るとかワーズワースの詩の講義をお願いするとかベルファストの治安回復の方途を立案するとかそんなことじゃないのだからこっちは片言の英語で充分、と思ったのですが、返事する間もなく、おっちゃんはその日本語を話せる人を迎えに駆け出して行ったのでした。

 やがて現れた30台半ばの男性。

 「日本語を話せる人というのはあなた?」

 「スシ、サクラ、ショーユ、サキ」

 「なるほど日本語だ。最後のサキは、酒って発音したほうがいいけどね」

 「フジサン、ヨコハマ、トーキョー、ウォーム・サキ」

 「燗をつけた日本酒のことかい? ウォームって英語じゃん。日本に行ったことあるの?」

 「ワサビ、サシミ、トロ、マグロ」

 「刺身が好きなんだぁ。」

 「スシ、サクラ、ショーユ」

 「はじめに戻ってるよ」

 「ヨコハマ、トーキョー、サキ……」

 「富士山をとばしちゃいけないなぁ」

 ……結局、会話は成立しませんでした。英語をしゃべってくれれば良かったのですけど、誇り高い、その町でただ1人の日本語話者は、ついに10個の和単語以外口にしなかったのであります。

 そういう気持ち、私にはわかるし、そうやって外国語というのはうまくなるのであります。ですから目の前の中国人学生には、「日本語がうまくなったら日本人と会話しようなんて考えるな、今の日本語力で、どんどん話しかけろ」と言っています。そもそもそのために、この大学には6名もの日本人外教がいるのであります。私は一緒にご飯を食べるのもカラオケに行くのも買い物をするのも貴重な機会だと思っております。私の配偶者がアパートに来たときには、複数名の生徒が「日本料理をならいたいです」といってやってきました。そして巻き寿司の巻き方を教えた配偶者へのお返しに、故郷のとっておきのスープを作ってくれたりしました。薄味のスープにワーワーツァイとピータンを小さく切ったものが浮かんでおり、絶妙のバランスなのでした。歌を歌ってくれた中国人学生もいます。

 料理をする。それは疑いもなく「情報の共有」であります。しかもおいしいものを食べながら不機嫌になっていく人間は政治家以外にはいないから、あらゆる意味で好都合なのであります。

 あらためて。

 コミュニケーションするためには、情報が必要なのであります。相手に対する疑問か、相手がちゃんと必要としてくれるであろう知恵を、こちらが持っているか、どうか。そういうものを繰り出しながら1時間半の食事会を楽しく実りあるものに運営するには、実は莫大なエネルギーが必要なのであります。そして当たり前のことですけど、話というのはするより、聞くほうが難しい。

 残念な中国人がいます。ひっきりなしにこちらの発音を、なおす。何を言っているかではなく、発音にのみ注意を払い、間違うのを待っている。とはいえ、こちらはどんな単純なことを言おうが、1単語あたり3つや4つは間違った発音をするのでありますから、直す機会は山ほどある。結局対話は成立しません。わたしにはすでに水曜日に2時間、金曜日に3時間、貴重な時間を割いて発音を教えに来てくれる生徒がいる。実に教え方がうまい。習うときにはその人から習うと決めている。

 ちゃんと情報の交流を行いたいというときに、言っていることはわかっているのに発音の違いを大喜びで直し出す中国人から、結局私は何かを学ぶということがないのであります。もちろん、発音だって、直らない。

 必死で教えようとする人からは、人は結局何かを習おうとは、しない。学校と教師というものに負わされた、恐ろしいパラドックスであります。過ぎ去った私の日本での教員生活33年間に、いまあらためて、合掌。

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コメント

こんにちは
お久しぶりです。
お元気ですか?
僕は鼻に出来たニキビを気にする程度には元気です。
ここ最近はテストや検定があり、忙しかったです。
師走は師だけでなく、弟子も走るほどのようです。

先日受けたワープロ検定の1級に合格しました。
三年生も受験会場におり、1級を受けるのは僕だけ。
そんなプレッシャーの中にどうにか結果を残すことが出来たようです。


来週は球技大会があります。
話によると僕らのクラスは全試合三年生なんだとか・・・
三年生を退いて、勝って行きたいと思います!

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