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2012年11月 6日 (火)

中国おいしいもの事情(その1)

 2年生との授業の中で、「今まで食べた中で一番おいしかったのは」という話になりました。

 私は、生芝海老の老酒殺しを紹介しました。ガラスの鍋に入れた生きた芝海老に、アルファルファみたいな野菜をかぶせる。老酒を注ぐ。すぐにウェイターさんが全体を激しく上下にゆさぶる。あっというまに芝海老は死んで動かなくなる。ウェイターさんはおもむろにそれを取り出し、一尾一尾殻を剥いてサービスしてくれます。私がこれを食べたのは1980年代終わりの神戸・三宮の『ハイファン』。海皇と書きます。コース料理だったのですけど、もちろん当時でも1万円以上はしたのではないのでしょうか。

 その海老をひとくち口に入れた瞬間の陶然とした印象を、忘れがたいものとして語ったのでした。

 福建省の男子生徒が立ち上がりました。

 「それ、普通の料理です。中国人は、ズイシャー、酔蝦、と呼びます。」

 「なんだって。夢の料理が君らには『普通』なのか。じゃぁこのハルピン市内の『名島海鮮』にもあるのか。」

 みんなは、あっさりと「あるでしょう」と答えました。最初に発言した福建省の男子生徒は、エビは食べたことないけど蟹ならある、と言いました。エビの代わりに生きて動く蟹で同じことをするのです。

 「い、い、い、いくらだっ!」と、私。

 「ボクが食べたときは50元でした。」

 なにぃ、61年の生涯で幻想の味と化している最高の美味が、650円だって!?

 食べる、食べる、すぐに食べる、食べに行く、とうわごとのように言い続ける私。

 でも、実際は。

 私は、名島海鮮へ行っても酔蝦を注文したりしないでしょう。

 スペインで生まれ生涯をアフリカ探検ですごした男が、死ぬ間際に友達から、「結局お前の人生で一番よかったことはなんなんだ」と聞かれました。その答え。

 「生涯かけて探し続けた象の墓場、それを、見つけられないまま死ねることだ」。

 ……含蓄のある言葉であります。私も友達にそう言って、死にたい。実のところ、神戸三宮の海皇で食べた伝説のそれの味なんてとうの昔に忘れています。食べられたらいいなぁ、いつかまた出会えたら幸せだろうなぁ、と思いつつ、死ぬ。

 そんな幸運は、ないのであります。

 ごめん、せっかく発言してくれた劉くん、ごめん。

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