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2012年11月 5日 (月)

中国東北部のながい夜、ニシキヘビは歌い、祈り……

 停電になると楽器が欲しくなる私。

 実は、赤平には電子ピアノ1台、G3のグランド1台、フルート1本(ヤマハのYFL)、電気ベースを2台(6弦と4弦)、アップライトベース1台、4/4のウッドベース1台、ギターが3台(うち1台は12弦)、温存してあります。どれもろくに弾けません。

 どれかを持ってくることを考えたのですが、全部やめました。どんな条件で暮らすかわからなかったし、中国入りの荷物の上限キロ数にひっかかりそうだったからです。結果的に、持ってきても弾けなかったでしょう、上下階に音が筒抜けのアパートですから、まず無理です。ベースなんかは音量はそれほどでもなさそうでも振動がすごい。

 しかし、中国の停電は本当におそろしいです。すでに午後4時半には真っ暗ですから、そんな時間帯に通電がなくなると12時間以上暗闇で過さないといけません。なぜか、中国の停電は復旧が早朝です。生活者としては夜にこそ、灯りが欲しいのに。

 どうしようもなく布団にもぐりこみながら、みなさんどうして時間を過していらっしゃるのだろうと、想像します。私は仏教徒ですがもちろん朝まで経を諳んじるような心得はなし。イスラム教徒ならコーランをみんな暗記していますから、それを唱えていれば心が休まることでしょう。

 ある文学評論家が、「物語は夜の暗がりに対抗しようとする人間の心がつむぎだした」という意味のことを述べています。狩猟採集生活の昔、夜の暗がりはどんな凶暴な野生動物が、魔物が潜むか知れない、魔界だった。人々は火を囲んで車座になり、面を向け合い、この現実世界ではない、別な世界の出来事をさもあることのように、語った。そうやって朝までの恐怖を乗り切った。

 そうか物語ればいいのか、と思うけれど、ろうそくでも点けた日にはなお怖い。だいいちアパートは1人部屋だ。

 どうすりゃいいんだ、と思いながらベッドのうえで転々としていると(まだ午後7時とかそんな時間帯)どこからともなく、二胡のあの、切なげな音が聞こえてきます。羊腸を撚り合わせたわずか2本の弦を馬の尻尾に松脂をなすりつけた弓でこすり、細かく震わせ、その振動を黒檀の棹から胴に伝えて共鳴させます。最終的に二胡の歌を歌うのはニシキヘビの皮です。

 あぁ、このアパートには二胡を弾ける人がいて、停電後の暗がりで練習しているんだなぁと思います。ハルピンの冬の夜はよく晴れます。月明かりで二胡を弾くのはなかなかの情緒のように思えます。

 おお、楽器じゃん。楽器がいい。それも、隣人の穏やかな眠りを破らないような少量の音で楽しめるものがいい。

 二胡は未知の楽器ですが、もちろんこれを買うことはできません。最も安いものでも20万はするし、もっと大きな問題は、日本へ持って帰ることができない、ということです。ニシキヘビの皮は何かの条約に抵触するのだ。で? 私が選んだ楽器は……。

 帰国時にはトランクにちゃんと入って。

 自然保護条約にふれなくて。(つまり動物の皮とか使ってなくて)

 音が出なくて。

 20万もするような高級品じゃなくて。

 ……さて、えと……ハルピンには地段街といって、びっしり楽器屋さんが並んでいる通りがあるんですが、水曜日にそこ行って、さて、何を買おう?

 夜の暗がりに対抗するための物語り儀式。専門用語で、イェーウトゥゴ、というそうです。今も尚、アフリカや南米では営まれているかもしれない。イェーウトォゴ、イェーウトゥゴ……。

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